児玉研

エマルションを使った素粒子実験


原子核乾板(エマルション)は特殊な写真フィルムです。 図1は光学顕微鏡で拡大したエマルションの写真で、見えている無数の点々は素粒子の飛跡です。 電荷を持つ素粒子がエマルションを通過すると、その経路に沿って ≤1μm の大きさのグレイン(感光した銀粒子の粒)の列が飛跡として残ります。 この様にして記録した素粒子の飛跡の中から、興味深い事象を探し出す実験を、大学4年生の頃からずっとやっています。 実際のエマルションは数百 μm の厚さを持ち、図はそのある断面での写真です。 厚さ方向の全体像を見るためには、顕微鏡の焦点面を動かします。 その様子を 動画 にしてあるので見て下さい。 エマルションに記録された飛跡は ≤1μm のグレインでできているので、素粒子のおこす様々な現象の3次元立体写真を、サブミクロンの分解能で撮影できます。 この分解能は、チャーム粒子やタウ粒子などの寿命の短い粒子が、生成・崩壊する様子を研究するのに威力を発揮しました。 ただし、その様な事象は一般的には非常に稀にしか発生しないため、目で見て探すのでは時間がかかりすぎ、事実上不可能です。 この時間を短縮する技術が、エマルションを使った実験の肝でした。 最近では、名古屋大学を中心とした実験グループ独自で開発した 超高速の読み出し装置を使って、 エマルションに記録した素粒子の飛跡全てをデジタルデータ化し、それをコンピュータで解析して、目的とする事象の候補を選別する事が可能になってきました。 参考になりそうな 動画 をこちらにまとめてあります。 私はこの候補選別の解析に使うソフトウェアの開発を主に担当しています。 もちろん、選び出した事象は、最後に顕微鏡で、直接エマルションを見て確認します。

原子核乾板デジタルアーカイブス計画

現在、主に取り組んでいるテーマは、過去の気球実験などのエマルションに記録されている全ての素粒子飛跡を読み出し、 そこに記録された事象のデジタルアーカイブスを作る事です。 その中で、知られている事象を順番に除いていった後に、どんな事象が残るのかを調べようとしています。 図2は、この研究の途中で得られた、RUNJOB という気球実験で使用したエマルションのデジタルデータから選び出した、 宇宙線起因の衝突反応(既知の事象)候補に関係する飛跡を CG で表現したものです。

盲学校とのかかわり

エマルションを使った素粒子実験に取り組む中で得た、コンピュータのソフトやエレクトロニクスなどのハードの知識を応用して、 盲学校の先生たちと協力しながら、盲学校の理科実験で使える道具の開発を行っています。 特に、途上国などでも使える様に安く作れる工夫をした感光器は、役に立ちそうなので、買える道具にしたいと考えています。 図3は一番新しい試作機で、単3電池1本で動作します。 これは、光の強弱を音の高低で表現する、いわば目のかわりをする道具です。 また、科学へジャンプ という、視覚に障害のある生徒が科学にチャレンジする機会をつくるための活動にも、 2009 年から参加しています。全国版のサマーキャンプと東海地区(愛知・岐阜・三重・静岡)での地域版の両方の活動に参加しています。